子どもたちの置かれている状況 9

2学期の期末テストまであと1週間となったある日、カウンセリングのために相談室に現れた彼女が、カバンから数学のワークを出して「2次方程式教えて」と言った時には、本当に驚きました。「もちろん、一緒に勉強しよう。どうしてそういう気になったの?」と尋ねる私に「中学校卒業では、美容師の専門学校へ入れないんだって。それに、昼間に通う定時制があるんだって。だから受けようかなと思った」どうやら、自分でネットでいろいろ調べたらしい。1年前にインテーク面接であったときの、何を聞いても「べつに」「知らない」と無気力に答えていた時の彼女からは、今の姿は信じられません。どうやら彼女は、私たちが考えていたよりもずっと真剣に自分の進路を考えていたようです。彼女の真剣さに応えなければ…しかし、この1年間勉強らしいことをしてこなかった彼女が、2次方程式を1週間で分かるようになるとはとても思えません。そこで、難しい問題に時間をかけて勉強するよりも、「勉強を頑張ると、ちゃんと成果が表れる」という体験を、彼女にさせたいと考えました。今まで学習や成績において、彼女は周囲から全く期待されませんでした。そこで、自分自身も「どうせ勉強できないし…」と信じて疑うことはありませんでした。彼女の言動を見るにつけ、「人は自分で思ったよりも大きく成長はできない」という言葉に深く同意しました。

でも、彼女に今まで見たことのない世界を見せてあげたい…