【子どもの心 若者の心 そして‥】15 当たり障りのないように生きてきた
このところ、「相手との関係性が深まると、何でも言える関係になる」といった思い込み(と考えます)について、考えています。(詳細については、以前のブログをご覧ください)
その具体例として、私の教職の授業を受講している2つのグループ「親しくないメンバーの集まり(3年生)」と、「親しいメンバーの集まり
(4年生)」を取り上げ、それぞれのグループ内での発問に対する話し合いの様子の相違点について、考えてきました。
そして、今期の授業の準備をしていたところ、過去の『皆さんの意見から』(授業後に、学生が提出する振り返りシートの記述)に、「チーム替
えがあって、今回は顔見知りのメンバーばかりだった。みんな、嬉しそうに自己紹介していたけれど、話し合いになったら、沈黙が続いた。前の
チームは知らない人ばかりだったけど、結構意見が活発だったのに‥不思議だ」という記述を発見しました。
これも、上記の考えの一つのエビデンスではないでしょうか?
そんな折、SNSで『褒められたくない若者たち』という記事を目にしました。
今の若者は、『褒められたくない、目立ちたくない、埋もれていたい』との考えです。
実際、大学生と関わる中で、こうした思い・感情を感じることがあります。
そして、『目立ちたくない・周囲から浮きたくない』といった気持ちは、このところ取り上げてきた二つの人間関係の異なるグループ内での言動
の違いとも相通じるところがあると考えます。
『発言して、凄いねと言われたくない』の思いの裏には、『周囲は、わたしのことをどう思うのだろう』という不安や怖れ、そして周囲を信じら
れないという不信感すらあるのではないでしょうか。
そして、新学期が始まりました。
教職科目の一つである『生徒指導』の授業の中で、興味深い出来事がありました。
大学の学生向け教職プログラムの学年による履修科目の変更があったようで、今期は2年生3年生4年生が混在して54人が受講しています。
もちろん、「小さい頃からのあこがれである先生になりたい」という学生は存在しており、とりわけ英米語科以外の外国学部では、履修すべき科
目が多く、多忙な毎日を過ごしています。『教職はブラック』と、社会で言われる中、強い志をもって頑張っている姿には、頭が下がります。ぜ
ひ、思い描いた進路に進んで欲しいものです。
その一方、「大変そうなので、今のところ教師になるつもりはないけれども、資格はとっておきたい」という学生は多数存在しています。これだ
け、教職に逆風が吹いているのですから、悩むのは当たり前と思います。生徒への関わり方を学ぶ中で、自分自身の生き方についても見つめてい
けたら、とても有意義な機会になるのではないかと捉えています。
そして、そんな学生たちの初回の授業の振り返りの中に、とても興味深い感想がありました。
○今まで当たり障りのないように生きようと学んできたし、自分もそうしていた。しかし演習2(配慮を必要とする子と他の生徒とのトラブル後の指導についての発問)で、私は「授業をして伝えれば分かってくれる」と思ったが、「本人にも注意をしつつ、得意不得意があることを伝える」という意見を聞き、自分がその子に対しても、他の子に対しても配慮が足りないことに気が付いた。それに加えて、その授業をすれば「私は伝えたからな」とトラブルを解決した気になる未来が見えた。グループワークの良さってこういうことだったのですね。
という感想です。
内容は、学級内の配慮を要する生徒ばかりに注意を向けていると(それはそれで大切なのですが)、他の生徒がその生徒にも教師にも反発してし
まったので、全員を大切にするにはどうしたら良いかということを考える課題でしたが、この学生はいろいろなことを考えたようで、私としても
充実感を感じました。
しかし、ここでの問題は、感想の一行目です。
今まで当たり障りのないように生きようと学んできたし、自分もそうしていた。
これを読んで、みなさんはどのように思われましたか?
私は、なかなか衝撃を受けました。
『当たり障りのない生き方』って、まさしく『褒められたくない、目立ちたくない、埋もれていたい』という生き方そのものですよね。
『褒められたくない若者たち』という話題のど真ん中の事例・エビデンスです。
そして、こうした考え方は、この学生だけのものといえないところに、問題の深さを考えさせられます。
どうして、彼等はそのように考えるようになったのでしょうか。
みなさんは、あなたはどのように考えられますか?
もちろん、『これが原因』等という決まった理由はないと思います。
『やっぱりSNSとかのせいじゃないの?』と思われる方も多いかもしれません。
しかし、ここで彼女の『当たり障りのないように学んできた』の、『学んできた』に目がいきます。
すなわち、学校が教員が教育が『当たり障りのないように生きる』と、教えてきたのではないでしょうか?
次回、ここを掘り下げていきます。
みなさんも、お考えください。
こうした身近な問題をもとに、参加者全員で話し合ったり、ロールプレイでスキルの練習をしたりする会【コミュニケーションカフェ】を開いて
います。
リアルでもOnlineでも開催しています。
詳しくは、このHPのトピックスをご覧ください。