子どもたちは、話したがっている ⑱ 事例⑤「約束って‥それ俺の約束じゃねえし‥」

いまどきの子どもたちの気持ちや考えていることについて、考えています。

 

スクールカウンセラーとして勤務していると、保護者や先生から「子どもたちが話さない」という相談をよく受けます。

そんな『話さない(と思われている)子どもたち』ですが、実は『自分の気持ちを分かって欲しい』と絶えず思っています。

そのため、子どもたちは『自分の気持ちを分かってくれそうな大人』を絶えず求めています。

そんな『気持ちを分かってくれそうな大人』になるための第一歩は、子どもの話をきちんと聴くこと(良い聴き手になる)ではないかと考えます。

しかし、実際に子どもたちに寄り添って話を聴いていると、いろいろな悩みが生じてきます。

 

第2部 具体的な事例をもとに考えてみます。(第1部の①~⑫ついては、以前のブログをご覧ください)

事例1 「うーん、訊き方下手!『大丈夫か?』では、誰も答えないよ」

知っておきたい知識・スキル①

『気になる話題を細かく具体的に尋ねることで、子どもが話す事柄が明確になり、話しやすくなる』

事例2 「先生、あなたの進路ではなく私の進路です」

知っておきたい知識・スキル①

『相手の相談にのるときに大切なことは、DoingではなくBeing』

知っておきたい知識・スキル②

『こころの動きは、言葉の動きよりも遅い』

事例3 「先生の偏見で、私を見ないでください」

知っておきたい知識・スキル①

『自分の色眼鏡・物差しをはずして、子どもと向き合おう』

事例4 「先生、私も見て!」

知っておきたい知識・スキル①

『目立つ子、目立たない子すべて、私のクラスの子』

 

(ここからが、今回の内容です)

事例5 「約束って‥それ、俺の約束じゃねえし‥」

中学2年生Aくんのお父さんが、「息子の気持ちが分からなくなって‥」と相談にいらっしゃいました。お父さんが言われるには「息子は家へ帰ってくると、いつもゲームばかりしていて、宿題も満足にやろうとしません。そこで、先日息子とじっくり話し合って、『8時から1時間だけは勉強する』と約束したのですが、一昨日帰宅したら、勉強しないで相変わらずゲームをしていました。それで、大喧嘩となったのですが‥約束したことすら守れない息子に腹が立っています。これから、どうしていけばいいですか?」という相談でした。

みなさん、どう思われますか?

この話だけ聴いてみると、確かに約束を守らないAくんが悪いということになりますが‥

翌日の昼の休憩時間に(昼は相談室を一般開放しているので、多くの生徒が遊びに来ます)、Aくんが現れました。

そして、「ねぇ、この前父さんが先生のところに来たよね」と言うので、「お父さんはいらっしゃいましたよ。どうして、約束を守れなかったの?お父さんはガッカリされていたと思うなぁ」と話すと、「違うんだって!」と言います。

そこで、詳しくAくんの話を聴くと‥

「あの日は、ずっーと『どうして、ゲームばっかりやって勉強しないんだ』と怒られ続けていたんだよね。きっと、2時間くらい。もう疲れちゃってた。その最後に、父さんが『明日からは、きちんと勉強するんだぞ』と言ったから『分か

った』って答えた。だって、あそこで『いやだ』って言ったら、まだ話が続くんだよ。先生だったらどうする?」

と尋ねられて、「私も『はい』って答える」と言いました。

みなさんでしたら、どうですか?

やはり、両方から話を聴くことは大切ですね。

そこで、しばらく後に、お父さんがいらっしゃった時に、「Aくんとの約束はお父さんの約束で、Aくんの約束ではないのでは?」と話すと、「えっ、どうしてですか?」と尋ねられます。

そこで、「お父さんとAくんの状況を、遥か昔のおじいちゃんとお父さんの関係に置き換えてみてください。そして、おじいちゃんにずっーと叱られていたお父さんは、おじいちゃんから『いいな、分かったな』と言われたら、どうされま

したか?そこで、『はい』と言わなかったですか?」と尋ねたところ、お父さんは笑って「言ったでしょうね」と答えられました。

みなさん、お分かりですか?

『約束』は、対等の関係の二人だからこそ、『約束』となるのです。

立場が、力関係が大きく異なる両者の間では、ただの『押し付け』となってしまうのです。

さらに言うならば、一見『対等』のようなフリをしているから、話の解決がよけいに複雑になるのです。

幸い、このお父さんはよく理解してくださって、その後Aくんともよい関係が築けたようで、良かったなぁとこちらも安堵しました。

知っておきたい知識・スキル①

『約束は、誰の約束?』

 

いかがでしょうか。

お子さんと、生徒等との『約束』を一度見直してみてください。

 

次回は、この事例からもう一つ「伝えたいのは気持ち」について、考えていきます。

 

こうした身近な問題をもとに、参加者全員で話し合ったり、ロールプレイでスキの練習をしたりする会【コミュニケーションカフェ】を開いています。

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詳しくは、このHPのトピックスをご覧ください。